翻訳者であり、翻訳会社の営業担当であるわたしの目線から機械翻訳について書きたいと思います。

機械翻訳を導入する翻訳会社にはそれぞれの思惑があります。もっと早く翻訳を終わらせたい、さらにコストを下げたい、周りが使い始めているので出遅れたくない等々。さらに、クライアントが独自に機械翻訳を導入して、ポストエディットを翻訳会社に依頼してくるようになり、危機感をいだく翻訳会社が増えてきました。

数年前のこと、Googleで翻訳した文章にネイティブチェックの依頼をしてきたクライアントがいました。その訳文の品質は劣悪でチェックでは足りず、ゼロから翻訳をした経験があります。翻訳者からするととんでもない注文ですが、発注者側からすればコストダウンの有効な手段と考えるのは当然かもしれません。

わたしが機械翻訳の営業に携わったのは、これから翻訳業界のあり方が劇的に変わり、これまでのような業態では翻訳会社が持ちこたえられないと感じたからです。もちろん、文芸翻訳やエンターテイメントには、機械翻訳は馴染まないようです。

翻訳会社の担当者の中には、複数の機械翻訳エンジンを長期にわたり比較して、最も良い訳出結果のエンジンを選ぼうとしています。翻訳者が訳文を精査して評価するのですが、「限りなく人間に近づき、最後は翻訳者の介入を必要としないエンジンが現れたら、翻訳会社は消滅することになりますね」と脅かしてみました。確かに売上が減っている翻訳会社が多くある中、業績を維持している、または伸ばしているのは自前の機械翻訳を持っている会社です。

機械翻訳は、あくまでも道具です。使い方次第で道具の効果は変わります。子供の頃、大きな木箱に入った父親の大工道具で工作をしようとするのですが、父親のようにカンナがけで、向こうが透けて見えるほどに薄く木材を削ることも、まっすぐにクギを打つことも、一直線に材木を切ることもできませんでした。使い本人の腕次第です。機械翻訳も翻訳者の力量次第なのです。完璧な道具を待っていたら確実に取り残されます。